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つぼ
壺
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页
「いいえそのひまはございません、そしてあなたさまのほかにおたのみ申す方はないのでございます」「わたしのほかにたのむ者がないとは……」「はいそれは、わたくしあなたさまを存じあげているからでございます、わたくし去年の夏から半年ほど伊賀の上野に奉公をしておりました、鍵屋の辻のおはたらきは話だけしか伺っておりませんけれど、城下をお通りあそばすおりおり、あれがその方だと教えられて幾たびもお姿を拝見しておりました」娘はじっとこちらを見あげながら云った、「……あなたは荒木さまでございます、荒木又右衛門さまとおみかけ申したればこそ、ぶしつけを承知でおねがいにまいりました、どうぞ七郎次を助けてやって下さいまし、あのひとは三人のお武家に斬られてしまいます」どなられても叩かれても、良人ときまった七郎次の側を去らず、あらゆる苦労をして元の百姓になるよう諫めつづけているという、お島の話は記憶になまなましい、いまその娘が、おぬいがそこにかれを見あげている、良人ときまった七郎次を助けたい、死なせたくないという一念を双眸にこめて、ひっしにかれを見あげているのだ。……かれは隣室の問答を聞いていた、三人の武士はその朋友の復讐に来た