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つぼ

壺

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页

青空文庫

闘志を蔵してまさに圧倒的なものにみえた。しかし同時にまた相手の腕もなみなみではなかった、木刀に対して真剣を抜いたところも武士らしく断乎としたものだし、正眼の尋常な構えも、七郎次のはげしさとは逆に山湖の水の如くしずかである、しかもそのしずかさは相手の手腕を知り、手腕の限度を見きっているようだ、もしも技において対等だとすれば後者はまさに気で勝っている、……又右衛門はふと右手で袴をぐっとつかみあげた、するとそれを合図のように、七郎次が絶叫して踏みこんだ、武士はふわりとうしろへひき、七郎次は飛鳥のように間を詰める、その刹那の間をあやまたず、「勝負みえた」と又右衛門が叫んだ。不意でもありよく徹る大音だった、切り返そうとした武士も、間を詰めていた七郎次も、はじかれたように左右へひらき、いっせいにこちらへふり返った。又右衛門はおぬいに向って、「さきへ戻っておれ」と云い、松の木蔭から出てゆっくりと四人のほうへ近づいていった。そして七郎次には眼もくれず、三人の武士のほうへしずかに会釈をして、「……ぶしつけですがさきほどからの勝負を拝見しておりました、次ぎの一刀でこの者のいのち無しと存じ、無礼を押してまかり出た