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つぼ
壺
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页
かれは一本杉の樹蔭へいって立ち、ぐるっとあたりを見まわした、午さがりのやや傾いた日をうけて、杉はいまその影を東のほうへと投げている、その投影を暫く見まもっていたかれは、やがて影のいちばん端、ちょうど梢にあたるところまであるいてゆき、鍬をとり直すと、些かの躊躇もなく力をこめて打ちおろした。
灼きつくような暑い日が続いた、朝夕は幾らか涼風も立つけれど、真昼は木葉もゆるがず、膚を焦がすように照りつける日光と、地から蒸れあがる温気とで、じっとしていても骨のぬけるような感じがする、七郎次はその暑さのなかでけんめいに鍬を揮い続けた。広い野なかの杉が、刻の移るにしたがって、地上へ投げる影の範囲は、考えるほど狭いものではない、しかもそこには生きるちからの勁い雑草が縦横に根を張っていて、打ちおろす鍬をともすればがんとはね返す、土を掘るというよりも寧ろその雑草の根との闘いでさえあった、「だがここにおれの運をひらく鍵がある……」七郎次は歯をくいしばって自分に云った、「これまでの苦心が実るか徒になるか、ここですべてがきまるんだ、へたばるな……」