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つぼ

壺

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页

青空文庫

ように、うしろから「ならんぞ」と云いながら近づいて来る者があった。おぬいはまったく不意をつかれ、あっと叫んでとび退いた、頭から足の尖までぞっと寒気だった。「……よけいな事をしてはならぬ」そう云いながら近寄って来たのは又右衛門だった、「そうしたい気持はよくわかるが、それでは七郎次のためにならない、本当にあれのためを思うならもっと苦しませなければならぬ」「でも、でも旦那さま……」おぬいはけんめいに云った、「あの人は食事もろくろく致しませぬ、この暑さに一日じゅう照りつけられて、まるで気違いのようになっています、このままでは倒れてしまうに違いありません」「おとこが生きる道を掴むにはいずれにしてもいのちがけだ、七郎次に限ったことではない」「では、……ではお伺い申します」縋りつくような声音でおぬいは云った、「……あんなに死にもの狂いになって捜している壺が、本当にこの土のどこかに、埋まっているのでございますか、本当に……」「おまえがそれを訊ねてどうする」「わたくし恐ろしいのです、あれほど夢中になっている姿を見るのも辛うございますし、もしその壺がみつかって、極意とやらの伝授を頂けたとしますと、あのひとはそれでお侍になってしまいましょう、それを思うといっそいつまでもみつからずにいて呉れたらよいとも考え