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つぼ

壺

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页

青空文庫

のもおれが百姓の伜だからだ、おなじ武士だったら、そして腰に刀を差していたら、あんな男の三人や五人に負けているおれではない。歯ぎしりをしてそう叫びたて、ときには暴れだして手のつけられぬこともあった、けれども暫くするとそれがぴたりと止んだ、そしてこんどは刀法の独り稽古をはじめた、家の背戸に松林がある、その松の枝へ三尺ほどの棒を麻繩で吊りさげ、手作りの木刀でそれを叩くのである。牛若丸のむかし語りをそのまま真似たものらしい、――ばかなことをするな、と親や兄たちで諫めたが耳もかさなかった。野良へも出ずに、そんなことを半年ばかりやっていた、それからふいと新宮へ出て来て、本吉権之允という兵法者の下男に住みこんだ、本吉は田宮流を能くし、水野氏に扶持されて家臣たちに教授していた、かれはそこに二年ほど下男をしながら、稽古のありさまを見てはくふうをしたものであろう、或るとき門人の一人にひとて教えて呉れと申し出た。――親の仇討でもするのか、そう云っておもしろ半分に裏の空地で相手になったが、その門人はしたたかに打ち込まれてしまった。ところが運悪くそれを権之允にみつけられた