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つぼ

壺

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页

青空文庫

のである、権之允はひじょうに怒り、――おのれの分際をわきまえぬやつだ、と云ってすぐにその場で暇をだした。七郎次はおどろかなかった、二年のあいだ見まねで太刀さばきの呼吸はのみこんだし、現に門人をみごとに打ち負かして腕に自信もついている、このうえは世に出る機会さえつかめばよい、そう思ってこんどはこの万字屋へ下男にはいったのだ。泊り客のなかには名のある兵法者もあるに違いない、これと思う人物が来たら仕合を申し込んで修業の足しにもし、あわよくばみいだされて出世の蔓にもしよう、百姓そだちのかれにはそれが精いっぱいの思案だった、そしてそれをじっさいにやったのである。かれは勝った、……ずいぶん多くの武士と立合ったがいちども負けなかった。「わたくしの知っているだけでも、もう十三人ほどお武家さまに勝っています……」お島は鼻でもこすりたげにそう云った、「けれどもひとつ可哀そうな話があるんでございますよ、お客さまは井戸端でよく洗濯をしている若い娘をごらんなさいませんですか」「……気づかなかったようだな」「おぬいという名で、色の白い、眼に愛嬌のある可愛い