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なつめせんせいのついおく

夏目先生の追憶

和辻 哲郎

「新小説」1917(大正6)年1月臨時号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,272 字 · 21 页

青空文庫

二

――私は落ちついて先生を論ずるよりも、かえってこの方が先生に対する感謝を現わすに適している事を感ずる。

――私は頭が乱れている。書き出しからしてもう主題にふさわしくない。

二

偶然であるか必然であるかは私は知らない、とにかく私は先生の死について奇妙な現象を見た。この秋、私は幾度か先生を訪ねようとして果たさず、ほとんど三月ぶりで十一月二十三日に先生を訪ねた。その日はいい天気だったので、Aとともに戸山が原を散歩して早稲田まで行った。Aは仕事がいそがしいため先生の所へは寄らないはずであった。私はいっしょに行きたいと言っていろいろ押し問答しながら歩いた。突然Aはいっしょに行こうと言い出した。それから十分ほどで先生の所に着いた。するとちょうど十分ほど前に先生が最初に血を吐かれた所であった。

私たちは何かの手伝いでもできれば結構と思って上がる事にした。座敷に通ってからふと床の間を見ると、床柱にかかった鼻まがりの天狗の面が掛け物の上に横面黒像を映している。珍しい面だと思って床柱を見たが、そこにはそんなに大きな面は掛かっていない。では小さい面が光のぐあいで大きく映ったのかしらと床柱の側まで行って見ると、そこに掛かっているのはただ羽団扇と円い団扇だけであった。