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なつめせんせいのついおく

夏目先生の追憶

和辻 哲郎

「新小説」1917(大正6)年1月臨時号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,272 字 · 21 页

青空文庫

しかし先生に紹介された時の印象はまるで反対であった。先生は優しくて人を吸いつけるようであった。そうしてこの印象は最後まで続いた。私はいかに峻厳な先生の表情に接する時にも、先生の温情を感じないではいられなかった。

私が先生を近寄り難く感じた心理は今でも無理とは思わない。私は現在同じ心理を、自分の敬愛する××先生に対して経験している。それはおそらく自分の怯懦から出るのであろう。しかしこの怯懦は相手があたかも良心のごとく、自分に働きかけて来るから起こるのである。その前に出た時自分の弱点と卑しさとを恥じないではいられないゆえに起こるのである。私は夏目先生が気むずかしい癇癪持ちであることを知っていた。もとよりそれは単なる「わがまま」ではない。すべて自己の道義的気質に抵触するものに対する本能的な気短い怒りである。従って、自己の確かでない感傷的な青年であった私は、自分が道義的にフラフラしているゆえをもって無意識に先生を恐れた。そうして先生の方へ積極的に進んで行く代わりに、先生の冷たさを感じていた。こういう感じを抱いた者はおそらく私一人ではなかったろうと思う。

この事実を先生の方から見ればどうなるか。