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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
そこは明治五年の大火以来、木造の建物を建てることを禁じられてからできた新市街で、最初はだれ一人その煉瓦の家屋にはいる市民もなく、もし住めば必ず青ぶくれにふくれて、死ぬと言いはやされたという話も残っている。言って見れば、そのころの銀座は香具師の巣である。二丁目の熊の相撲、竹川町の犬の踊り、四丁目の角の貝細工、その他、砂書き、阿呆陀羅、活惚、軽業なぞのいろいろな興行で東京見物の客を引きつけているところは、浅草六区のにぎわいに近い。目ざましい繁昌を約束するようなその界隈は新しいものと旧いものとの入れまじりで雑然紛然としていた。
今は旅そのものが半蔵の身にしみて、見るもの聞くものの感じが深い。もはや駕籠もすたれかけて、一人乗り、二人乗りの人力車、ないし乗合馬車がそれにかわりつつある。行き過ぎる人の中には洋服姿のものを見かけるが、多くはまだ身についていない。中には洋服の上に羽織を着るものがあり、切り下げ髪に洋服で下駄をはくものもある。長髪に月代をのばして仕合い道具を携えるもの、和服に白い兵児帯を巻きつけて靴をはくもの、散髪で書生羽織を着るもの、思い思いだ。