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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
恭順は言った。
「どうです、青山君、君も役不足かもしれないが、一つ飛騨の山の中へ出かけて行くことにしては。」
どうして役不足どころではない。それこそ半蔵にとっては、願ったりかなったりの話のように聞こえた。この飛騨行きについては、恭順はただ不二麿の話を取り次ぐだけの人だと言っているが、それでも半蔵のために心配して、飛騨の水無神社は思ったより寂しく不便なところにあるが、これは決して左遷の意味ではないから、その辺も誤解のないように半蔵によく伝えくれとの不二麿の話であったと語ったりした。
「いや、いろいろありがとうございました。」と半蔵は恭順の前に手をついて言った。「わたしもよく考えて見ます。その上で田中さんの方へ御返事します。」
「そう君に言ってもらうと、わたしもうれしい。時に、青山君、君におめにかけるものがある。」
と恭順は言いながら、黒く塗った艶消しの色も好ましい大きな文箱を奥座敷の小襖から取り出して来た。その中にある半紙四つ折りの二冊の手帳を半蔵の前に置いて見せた。
「さあ、これだ。」
恭順がそこへ取り出したのは、半蔵の旧友蜂谷香蔵がこの同門の医者のもとに残して置いて行ったものである。