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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
高さ二尺あまりほどのものである。杉柾の緑と白い紙の色との調和も、簡素を愛する彼の好みをあらわしていた。これを裏二階のすみにでも置いて戸障子のすきまから来る風のふせぎとしてもよし、風邪にでも冒された日の枕もとに置いて訪う人もない時の友としてもよし、こんな彼の言葉も継母をよろこばせるのであった。
ちょうど、お民も妻籠の生家の方へ出かけてまだ帰って来ない時である。半蔵のそばへ来て祖母たちと一緒に屏風の出来をいろいろに言って見るお粂も、もはや物に感じやすい娘ざかりの年ごろに達している。彼女は、母よりも父を多くうけついだ方で、その風俗なぞも嫁入り前の若さとしてはひどく地味づくりであるが、襟のところには娘らしい紅梅の色をのぞかせ、それがまた彼女によく似合って見えた。彼女はまた、こうした父の意匠したものなぞにことのほかのおもしろみを見つける娘で、これを父が書く時にも、そのそばに来て墨をすろうと言い、紙にむかって筆を持った父の手から彼女の目を放さなかったくらいだ。もともとこの娘の幼い時分から親の取りきめて置いた許嫁を破約に導いたのも、一切のものを根から覆すような時節の到来したためであり、これまでどおりの家と家との交際もおぼつかないからというのであって、旧い約束事なぞは大小となく皆押し流された。