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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

その晩は、彼は香蔵からもらった手紙をも枕もとに取り出し、あの同門の友人が書いてよこした東京の便りを繰り返し読んで見たりなぞして、きげんの悪い妻のそばに寝た。

王滝行きの日は半蔵は早く起きて、活きかえるような四月の朝の空気を吸った。お民もまたきげんを直しながら夫が出発のしたくを手伝うので、半蔵はそれに力を得た。彼は好きで読む歌書なぞを自分の懐中へねじ込んだ。というは、戸長の勤めの身にもわずかの閑を盗み、風雅に事寄せ、歌の友だちを訪ねながら、この総代仲間の打ち合わせを果たそうとしたからであった。

「どうだ、お民。だれかに途中であって、どちらへなんて聞かれたら、おれはこの懐中をたたいて見せる。」

と彼は妻に言って見せた。そういう彼は袴を着け、筆を携え、腰に笛もさしていた。

「まあ、おもしろい格好だこと。」とお民は言って、そこへ飛んで来た娘にも軽々とした夫のみなりをさして見せて、「お粂、御覧な、お父さんは笛を腰にさしてお出かけだよ。」

「はッ、はッ、はッ、はッ。」

半蔵は妻の手から笠を受け取りながら笑った。

「お粂、王滝のお宮の方へ行ったら、お前の分もお参りして来てやるよ。