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おおえどおうごんきょう

大江戸黄金狂

野村 胡堂

「新青年」1939(昭和14)年11月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页

青空文庫

その後、役人の取調につれて、関所手形を贋造して、小田原の旅籠屋の怪し気な客引きに売らせ莫大な利益を取り容れていた、万田九郎兵衛の非曲は悉く知れましたが、山浦丈太郎の功を嫉む者があって、「山浦も同じく関所役人だ、万田と同腹で悪事を企て、利益の割当が少なかったので、万田を斬ったに違いない」と言い触らされ、何時まで経っても大久保家から召し還しの使者が来ないばかりでなく、反対に刺客を放って、山浦丈太郎を覘っているという噂さえ立ち始めました。

そんなに曲解されなければならぬ境遇や、その日の物にまで事欠く、三年越の浪人生活に、山浦丈太郎悉く嫌気がさしている矢先、この不思議な手紙を受取ったのです。

「よし、それならば、討たれて死んでやろう。俺の言い分の通らない世の中に、貧乏し乍らビクビク生きているより、悪人の倅でも親の敵を討とうと言う、殊勝な孝子の刃に掛って死ぬのも武士の本懐だ」

山浦丈太郎は、物事をそんな風に考える男でした。

取って二十八の良い男、箱根焦けのした浅黒い顔、見事な恰幅、羽織も袴も七つ下りですが、腰の物だけは親譲りの立派な相州物、何も彼も叩き売った一両二分の金を懐にして山浦丈太郎悠然として、敵討たれの旅に上ったのです。