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おおえどおうごんきょう

大江戸黄金狂

野村 胡堂

「新青年」1939(昭和14)年11月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页

青空文庫

貝六の睨み

「馬鹿奴ッ」

「俺は鉄砲の撃ちよう位は知ってるぜ。今のは小手調べさ、小鬢をちょいとかすって、傷をつけないところが手際だろう、本当に撃つ気なら、眼玉でも鼻の穴でも喉仏でも、望み次第に撃ち貫いてやる――屏風岩の根を廻って来ようなって駄目さ、大きな声を張り上げりゃ、畑宿まで筒抜けだ、ものの百も数えぬうちに、お役人が五六十飛んで来るよ、今の鉄砲の音で、宜い加減驚いてるんだもの」

「――――」

「驚いたか御浪人、尻尾を捲いて引揚げる方が無事だぜ」

海道丸の啖呵は虹のようでした。柄も顔も十三四ですが、言うことを聴いて居ると、全くすれっからした大人です。手織木綿の半裸、縄の帯、膝っ小僧を出して、馬の草鞋のようなでっかい草鞋をはいて、足柄山の金太郎を世話に崩したような少年のくせに、何んと言う恐しい口でしょう。

赤崎才市は黙って引揚げました。お染の懐に、狙った密書が無いとすると、この上小僧をからかって、つまらない破綻を招くのは、いかにも馬鹿気て居ります。

貝六の睨み

「大層な勢いじゃないの」

後から柔かい声、

「あ、姐御か、何時の間に来て居たんだ」

振り返った海道丸の鼻の先へ、近々と白糸のお滝の肌が薫じます。