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めおとのあさ

夫婦の朝

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,008 字 · 22 页

青空文庫

二

「しばらくでしたな、お由美どの」

そう云いながら後手に襖を閉めた。

二

焜炉の上では貝鍋が煮えていた。

秋田の国許から、季節になると名物の魚を雪詰めにして届けて来る、それが家臣たちにも少しずつ贈わるので、故郷の山菜と共に塩汁で煮るのが冬になっての楽しみのひとつだった。

お由美はそっと良人の横顔を見た。

三右衛門は黙々と箸を動かしている、……ふだんから口数の寡い方で、濃い一文字眉と、髭の剃跡の青い角張った顎は、ちょっと近付き難いほどの威力を持っているが、なにげなく振返る時の表情や、ぽつりぽつり語る言葉の韻には、思い懸けないほど温かな底の深いものを感じさせる。……加納三右衛門という名は佐竹家でも名誉の家柄で、食禄こそ五百石足らずであるが年寄の格式をもっていた。

「……どうしたのだ」

ふと三右衛門が眼をあげた。

「溜息など吐いて、気分でも悪いのか」

「はあ、……いいえ別に」

「顔色も悪いぞ」

お由美はぐっと喉の詰る気がした。……そして思い切ったように、

「実は、お願いがございまして」

「……なんだ」

「あのう……金子を少し頂きたいのでございますが」

三右衛門は不審るように妻を見た。