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おんなはおなじものがたり

女は同じ物語

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 页

青空文庫

彼は狼狽したが、云ってしまってから、それが自分の真実の気持であり、ここではっきりさせるべきだ、ということに気がついた。

「紀伊は私の妻になってくれるか」

「うれしゅうございますわ」紀伊は赤くなったまま眼を伏せた、「若旦那さまのお気持はよくわかりますの、本当にうれしゅうございますけれど、身分が違いますし、なにより奥さまがお許しなさいませんわ」

「それは私が引受ける、来てくれるか」

「わたくしにはお返事ができません」紀伊は顔をそむけた、「だって、それはできることではないのですもの」

「いますぐに話す、これから話して、きっと承知させてみせるよ」

「いけません、若旦那さま」

「あとで会おう」と広一郎は云った、「今夜その結果を知らせてやるよ」そして彼は卒然と、紀伊の手を握った。彼女の躯はぴくっとし呼吸が深く荒くなった。そして、広一郎に握られた彼女の手は、冷たく硬ばったまま動かなかった。

心配しないでいい、きっとうまくゆくよ、と広一郎は云った。紀伊は黙って顔をそむけていた。続けさまの感動で、ものを云う力もない、というようすであった。

広一郎は母の部屋へいった。そこには鼓の師匠が来て、母の稽古をみていた。