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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
「八千代さん、電信柱も下の方でコールタールの塗ってあるあたりです。後から見ると馬力か何かが中って少しさゝくれていました。刺が出ていたんですね。丁度そこへ心持ち叩く積りで手を出したから溜まりません」
「探究の犠牲ですわね」
と八千代さんは女子大学生丈けにむずかしい受け答えをして、
「そうして電柱の数は何本でございましたの?」
「それがですよ、馬鹿な話です。ズキンと脳天まで響いた拍子に二十二本だったか二十三本だったか忘れてしまったんです」
「まあ! オホヽヽ」
「しかし考えて見ると不思議ですね。この無限に広い宇宙間で、あんな針の先ほどのものが正にこの狭い爪の間へ割り込んだんですからね。私は痛いながらも偶然の威力に敬意を表しましたよ」
「刺を立てゝ敬意を表していれば世話はありませんわ。あなたは何でも余計なことをなさるからいけないんですよ」
と細君は黙っていなかった。
「全く余計なことさ。考えて見れば触る必要はなかったんだもの」
「いゝえ、電信柱なんか勘定するのが抑余計なんですよ」
「こいつは大失策だ。根本的にいけないのかい?」
と温順な千吉君は争いもしなかった。
「叔父さんは散々ね」