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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

但しこれは洋服で行ってくれゝば一番世話がないという意味だった。この階級の奥さま方は良人の和装によって自分達の好尚が鑑定されると思っているから、見立てに人知れぬ苦労をする。和服を着せて良人を出すのは先方の家の細君への一種の示威運動である。しかしそんな都合に頓着ない千吉君は、

「和服で行こう」

と答えた。何ういう廻り合せか、細君があの襦袢を早く縫ってなぞと胸算用をしている時に限って、良人は和服を要求する。確信をもって選定した柄を仕立て上げ、何も彼も揃えて待ち構えていると、洋服の方が便利だと仰有る。強いて着せようとすれば怒るから尚お始末が悪い。この日も何か然うした関係があったか、それとも看護婦に示威運動は不必要と思ったのか、細君は、

「病院なら洋服の方が宜かないこと?」

と再び伺いを立てた。

「いゝや、病院から橋口君のところへ廻る。謡曲を聞かされるんだから和服の方が楽だよ」

と千吉君は交際家だから日曜がナカ/\忙しい。

「それなら和服になさいませ」

と細君は初めて和服の必要を認めて、嗜みの程を見せる為めに早速箪笥にかゝった。

「橋口さんて、この間の晩謡曲をなすったお方ですの?」