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いかなるほしのもとに

如何なる星の下に

高見 順

「文藝」1939(昭和14)年1月号~1940(昭和15)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,508 字 · 236 页

青空文庫

と先客。

私ひとりになった。私は坐り直して、――小……と書きにかかったが、これはどうしたわけか、私の胸は、急にキューンと切ない想いに締めつけられたのであった。小柳雅子がもうむやみと恋しいのだ。ローマ字の時は、そんなことはなかったのは、やはりローマ字だとなまなましく訴えるところがないせいだろうか。それともその時は客がいたためだろうか。

吐息をつきながら、匙を運んだ。

小柳雅子。――ひどく横びろのブクブク肥った字ができ上った。すんなりした実物の小柳雅子の感じとまるで違う、醜く肥った字で、その醜さがいやだったが、――じッと見ているうちに、そのいやな気持のなかに、それと違った、もっとはなはだしくいやな気持がムクムクと湧いてきた。その字の形は、実物の小柳雅子とは似てもつかぬものだったとはいえ、その字そのものはまさに小柳雅子の姓名に他ならない。それをば、無慙にも鉄板の上に乗せて焼いているのは、何か丑三詣りに似た呪いの所業でも行なっているような気がし出したのだ。

(――これは、いかん。)

そのうどん粉は、薄い外側から漸次焼けて行って、色が変って行く。私は、いかんいかんと心の中でつぶやきながら、しかしそのままその変化をみつめていた。