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いかなるほしのもとに

如何なる星の下に

高見 順

「文藝」1939(昭和14)年1月号~1940(昭和15)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,508 字 · 236 页

青空文庫

「――お兄さん」

と口の中でつぶやくこともあった。心のなかで、私は憧れの踊り子の美しい甘い顔、美しい甘い姿態を思い描いていた。ああ、憧れの彼女が、――あのいとしい小柳雅子が私に向って「お兄さん」と言ってくれるのは、いつの日か。私はその日のくるのを、どんなに待ち望んでいたことだろう。だが同時に、そうした日のくることが何か恐い感じでもあった。なぜかそうした日の来ないことを願ってもいた。……

話は美佐子に戻って、――はてさて、恋心持の話から食いものの話に突然移るのは妙な工合であるが、――「ビフテキ」、お好み焼の「ビフテキ」である。その「ビフテキ」というような、ただ油をひいて焼くだけでなく、焼きながらその上に順次、蜜、酒、胡椒、味の素、ソースの類いを巧みに注ぎかけねばならぬところの、ちょっと複雑な操作を必要とするものは、私は美佐子に調理を頼んだ。「ひとつ、願いましょうかな」というような言葉で頼むのだが、それは、焼き方が難しいから未熟な私の手に若干負えないせいもあるけど、美佐子が側で何か手ぐすねをひいて、まかされるのを狙っている風だったからもある。そうした、明らさまに感ぜられる希望、――というより欲望を無視して、自分で洒蛙洒蛙と焼くというようなことは、ちょっとできがたい私の性分である。