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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「兄さんがこんな姿になっても、貯金さえ無事ならおまえは本望だろう、え、そうなんだろう」母の声は半ば叫びになり、その眼から涙がこぼれ落ちた、「兄さんはおまえのように薄情じゃなかった、伸弥は心のやさしい、親おもいな子だった」母はベッドの上の、もの云わぬあにきを覗きこみ、嗚咽しながら云った、「いつもあたしのことを気にかけて、おっかさんおっかさんって、そんなにこんを詰めると疲れるよ、肩を叩こうか、少しは休まなくっちゃ毒だよって、――こんなにあたしのことを心配してくれた子はなかった」そして母は辰弥のほうへ振向いた、「おまえなんか一度でもそんなことを云ってくれたためしがあるかい、一度でもあたしのことを心配してくれたことがあるかい、こそこそ隠れて貯金なんかするときに、一度でも親きょうだいのことを考えたことがあったかい」
辰弥は力なく、静かに、黙って頭を垂れた。
「伸弥。伸弥ったら」母は泣き声であにきに呼びかけた、「死なないどくれ、なにか云っとくれよ、おっかさんはおまえだけが頼りなんだからね、お願いだから死なないどくれよ」
辰弥はそっと廊下へ出てゆき、手の甲ですばやく眼をぬぐった。