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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

いつものとおり、この種のおしゃべりが続くだけで、亭主たちのことを口にしないほかは、話しぶりにも態度にも、まったく変化はみられなかった。

この状態がなんの支障もなく続いた。近所の人たち、特にかみさん連中が知らずにいたわけではない。相当とっぴないろ恋沙汰に慣れているかみさんたちも、この二た組のやりかたには胆を抜かれたし、そのうえなんの騒ぎもおこらず、亭主たちも細君たちも従来どおり仲良く、平和につきあっているという事実を慥かめると、さらに深い驚きを感じ、ここの住人として例のない、道徳論までもちだして非難しあった。

「どっちもどっちだけどさ、まああんな夫妻ってあるかねえ」

「こんにちさまが黙っちゃいないよ、こんにちさまがね」

「あたしゃ子供にきかれて弱りぬいたよ、このごろの子供ときたらませているからね、うちでもおとっちゃんと作さんのおじさんが取っ替ればいいだってさ、あいた口が塞がりゃしない」

「子供は眼が早いからね」

この会話にはデリケイトな含みがあった。つまり、左官の手間取りをしている松さんの細君と、若い土方の作さんとは、かなり以前から親密にしており、松さんのいないときにその親密の度がぐっと高くなる、という事実が相当ひろく知られていたのだ。