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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「眼が早いのは子供だけじゃないけどね」と松さんのかみさんは平然とやり返した、「人目を憚ってする浮気ぐらいなら、にんげん誰だって覚えのあるこった、あんまりきれいな口のきけるにんげんはいやあしまいと思うけどさ、あの夫妻たちのようにおーっぴらでやるなんてひどすぎるよ」
「おてんとさまが黙っちゃいないよ、おてんとさまがね」
勝子や良江が来ればみんな口をつぐむ。もちろん、彼女たちの会話が、勝子や良江の耳にはいらないわけではない。二人に聞きとれる程度までは話し続けているし、その効果を見る快楽を放棄する、などという贅沢なまねはしないのであった。
にもかかわらず、かみさんたちの期待は裏切られた。勝子も良江もぜんぜん反応をあらわさず、平気な顔でおしゃべりパーティーに加わり、活溌に笑ったり話したりした。たまりかねたかみさんの一人が、或るとき勝子に向ってあいそよく増田益夫のことをたずねた。
「そう云われてみればそうね」と勝子はあっさり問いに答えて云った、「相変らず飲むことは飲むけれど、酔って暴れるようなことはなくなったわ、お良っさんとこはどう」
「云われてみればそうね」と良江も明るい表情で云った、「飲むことは相変らずだけれど、酔っぱらって暴れるなんてことはなくなったようだわ」