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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

乞食同様といったのは、生活のかたちがそうなのであって、内容にはかなりへだたりがあるからなのだ。食物も衣類も他人から貰うし、犬小屋のような住居で寝起きをしているが、道傍に坐って銭乞いをするようなことはない。中通りとか本通りなどで、女の人がときどき子供に幾らか呉れることがあると、子供は「ありがとう」とおじぎをして受取るが、世間の子供と変ったところはないし、物欲しそうな感じはまったくなかった。――それはまた、父と子の会話にもあらわれている、いま小雨のけむる街を、傘もささずにあるいてゆきながら、二人はいつか建てる筈である自分たちの家について語っていた。

「場所は丘の上がいいな」と父親が云う、「日本人は昔から山の蔭とか谷間とか、丘のふところとかね、低いところばかり好んで家を建てる癖があった」

「そうだね、ほんとだ」と子供は考えぶかそうな顔つきで頷く、「ハマへいったときもさ、けとうの家はみんな丘の上とか、中ぐらいの高みにあるけれど、日本人の家はきまって谷みたいな、低いところにあったね」

「それにも理由はあるんだな」と父親は続ける。日本は地震が多いし台風も多い、木造家屋はそれらに弱いため、なるべく風あたりの少ない、天災に際して危険度の低い土地を選ぶようになった。