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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

すし屋の次には小料理屋、次にレストラン、おでん屋、中華そば屋となるのだが、レストラン二軒、小料理屋四軒、おでん屋三軒、中華そば屋二軒とあるうち、店をしまいかけているところが優先する。これは時間をまちがえると、「まだ客がいるのに縁起でもないね」とか、「お客を追い出す気かい」などと云われる危険があるし、一度そんなあやまちをしでかすと次に貰えるまできげんの直るのを待たなければならないし、しばしば競争者に権利を奪われる危険さえあった。

断わるまでもないかもしれないが、残飯を貰いに来るのは、その子供だけではない。われらの「街」からも、稼ぎがなくて困ると、ひそかにこれらの店の裏口を叩く者があったし、よそから定期的にやって来る者も幾人かいた。――おかしな話だが、八田公兵もあらわれたことがあるのだ。尤も八田じいさんの場合は困っているからではなく、それを彼の「事業」にしようというもくろみからであった。信じがたいほど多彩な彼の事業欲の中でも、それはもっとも有望であり、確実性も高い一例であったけれども、おでん屋の「花彦」という店のかみさんの反対声明で、残念ながら軌道に乗らなかった。