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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
そして、彼が振向いて見たりすると、ええ、ぼくはここにいますよ、心配しないで下さい、大丈夫ですよ、という意志を教えようとするような眼つきをし、もっと大きく尻尾を振る。――彼はごくたまにしか声をかけない。振返って仔犬を見るときには、なんともいいようのない表情が顔にあらわれる。それはなにか話しかけたいようでもあるし、話しかけても相手には聞えない、ということを知って、「かなしいな」と呟くようでもあった。
きみ、子供をどうしたんだ。死んだ子供をきみはどうしたんだ。あの子のことは思いださないのか、もう忘れてしまったのか。きみのために残飯貰いをし、それをあたためて食事の支度をし、きみのでまかせな話、なんの役にも立たない非現実的な話を、いやがりもせずに聞いたり、雨に濡れるのも構わず、いつもきみといっしょにあるきまわり、きみのために休みなく気を使っていたあの、幼い子のことを哀れだったと思いだしてやりさえもしないのか。きみ、いったいあの子をどうしたんだ。
「たいしたことはないな」彼はあるき続けながら、声を高めて云う、「どっちにしろたいした違いはないんだな、五十歩と百歩じゃあずいぶん大きなひらきだけどさ、でも世間じゃあ五十歩百歩と同じくらいに云ってさ、自分の問題となれば九十歩と百歩でも、相当むずかしく考えるだろうけれど、それにしても