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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
もしも「その話は聞いたよ」とでも云えば、逆にもう一人べつの彼女をひきだしてきて、それこそ二、三日は気が沈むほど聞かされるのがおちであった。――顔はおもながのようでもあり、まるいようでもあり、また、そのどっちでもないようでもあった。眉もはっきりせず、眼は細く、唇は厚く、鼻は蜜柑の皮のように穴だらけだし、顔いちめんにきびを潰した痕だらけである。一メートル六〇そこそこの身長を、「五尺七寸たっぷり」だと自慢し、それを証明するためだろう、人の見るところではいつも背伸びをしていた。
或るとき、この「街」の真吾さんについて、一人の警官が徳さんの家をおとずれた。まだ若い警官で、初めに隣りの島悠吉にきき、それから徳さんの家へ来た、ということがあとでわかった。
「なんですか」警官の姿を見るなり、徳さんはがたがたふるえだした、「なんの用ですか、あっしは竹家のことには関係なしですよ」
「あんたのことじゃない、あんたには関係のないことなんだ」警官は手帳を繰りながら、彼のほうは見ずに云った、「きみは戸部真吾という者を知ってるかね」
自分のことではないと知ったとき、徳さんの硬ばった表情がゆるみ、躯のふるえが止った。