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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
を横切っているだけであった。小屋の窓の外に一本、高さ一メートルばかりの細い枯木が立っているが、枯れてから幾年も経つのだろう、いまではなんの木であるかもわからなかった。
平さんの小屋とその周囲には、生命というものが感じられなかった。そこに見られるのは、人にかえりみられなくなった荒廃ではなく、不毛と枯死そのもののようであった。
平さんは誰ともつきあわず、日常の挨拶も殆んどしなかった。本当の名もとしもわからない。見たところ五十歳から六十歳のあいだらしいが、ときによると七十ちかい老人のように、力なくやつれてみえることもあった。躯は小柄で痩せているけれども、筋肉はひき締って、陽にやけた皮膚にもつやがあり、いかにも健康そうだし、眉の濃い細おもての顔も、よく見るとなかなか品があった。
「若いころはきっといい男ぶりだったろうね」とかみさんたちは云いあった、「いまだって捨てたもんじゃないだろう、このあいだ誰かさんが、夜なかに這い込んでったっていうじゃないか」
「なま睡の出るような話じゃあないの、誰かさんって誰よ」
「およしよお吉さん、云いだしっぺってこと知らないの」
云いだしっぺといわれたかみさんはふんと鼻を鳴らし、それからすました顔で続けた。