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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
ときたまどちらかが、今日は天気がいいなと云えば、うん、よく晴れたなと片方が答える。かなり時間が経ち、もう忘れたころになって、世間の景気は相変らずだなと片方が云えば、相変らずだと一方が答え、それっきり声はとだえる、というふうであった。
そのうちに、その半助もいなくなった。
半助は人に連れ去られたのである。連れ去ったのは刑事だともいうし、半助がいかさま賽を作っていたため、プロの賭博者たちが掠っていったのだともいわれた。どちらにもせよ、平さんはたった一人の友達――ともいえないだろうが、ともかくただ一人の知人を失い、また自分ひとりのくらしに戻った。
朝はやく、平さんは小屋から出ると、手拭を入れた洗面器と、古バケツを持って水道端へゆき、顔を洗い、バケツに水を汲んで帰ると、次に蜜柑箱の一つから米、他の一つから麦を量り出して、ニュームの鍋へ入れ、もう一つのバケツといっしょに持って水道端へゆく。米をとぎ、水を汲んで小屋へ戻り、めしを炊きにかかる。――この「街」の住人はその日稼きが多いので、みな朝は早いから、水道端にはたいてい人が来ていて、中には平さんに呼びかける者もあるが、彼はなま返辞をするばかりで相手にならない。