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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

――平さんの小屋も幾たびか襲われたが、開き戸も窓もあかなかった。どういうくふうがしてあるのか、いろいろと攻撃したようだが、いちども成功しなかった。もとよりいたずら半分のしごとなので、小屋を打ち壊すほどの乱暴はしなかったし、やがて、平さんが大切にしているのは、五個の漬け物樽だということがわかってからは、もう誰も関心をもつ者はいなくなった。

平さんはこれらのことを知っていたであろうか、それともまったく勘づきもしなかったろうか。

いずれにせよ、彼のようすは少しも変らなかった。彼はいつも動いていた。はたらいている、というのではなく「動いている」という感じであった。――大きな麻袋を背負って帰ると、中のぼろ布を出して選り分け、即席竈に火を焚いて、石油罐の湯を沸かし、粉シャボンを混ぜて、より分けたぼろ布を入れ、木の枝でかきまわしながら煮る。よそ見をすることもなし、鼻唄とか独り言を呟くこともない。必要に応じて躯や手足が動作するだけで、意志のはたらきとか、感情のあらわれというようなものは少しもみられなかった。――小屋の南側に、二本の杉丸太を立て、麻繩を三段に張った干し場がある。