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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

平さんは彼女の炊いためしを喰べるし、洗濯してくれた物を着、のべてくれた夜具で寝た。――これらはいつもの「ただ動いている」という感じのもので、めしを喰べるときでさえ、めしを喰べる、という意識なしに、箸を使い物を噛みそれをのみこんでいる、という動作があるだけのようであった。

平さんの生活は少しも変らなかった。ぼろ布を買いにゆき、それを石油罐で煮て干し、裂いてマットレスを編む。女がそばから手伝おうとすれば、黙って女のしたいようにさせる。その品が好評なのは平さんの丹念な仕事ぶりにあるので、それには彼が情熱をつぎこみ、ほかの者には手も触れさせないだろうと、いちおう誰でも考えるところであるが、平さんにはそんな気持はないようで、女が手を出せばそれを女に任せ、自分は次の仕事にかかるのであった。

幾枚か編みあがると、平さんはそれを包んで売りにでかける。あとに残った女は休もうともせず、小屋の中を片づけたり、小屋の周囲をきれいに掃いたり、地面にちらばっている瓦や瀬声物のかけらを拾って、捨てにいったりした。

女が平さんの小屋にいついたことは、すぐ近所の人たちにみつけられた。