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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
ビスマルクいわく
夕宵の中に青白い煙がひろがって、まもなく赤い炎が鍋の底をなめながら、ゆっくりと周囲に明るみをひろげ、そこに跼んでいる平さんの半面を浮き彫りにした。平さんの顔は硬く、無表情で、瞳孔の散大したような眼は、なにを見るともなく、前方にひろがる暗い空間を見まもっていた。竈の火が揺れると、平さんの顔もゆらゆら動くようにみえるが、その表情は少しも変らなかった。
風が少しつよくなり、竈の焚木がいぶりだした。平さんは焚木のぐあいを直し、煙にむせながら二、三本の木切れを取って、火の中へ加えた。
ビスマルクいわく
寒藤清郷先生が云った。
「きみはロータリー・クラブのかくれたる意図を知っとるかね」
八田忠晴はちょっと考えて、膏の浮いた額を撫でながら答えた。
「よく知りませんが、国際的な社交団体じゃないんですか」
「それはカモフラージだ、かれらが諸外国の民族独立精神に対するめつぶし的金看板にすぎない、ぼくのきいているのは、その金看板の裏に、かれらがどんな野望をたくらんでいるかということだ」
「かれらはなにかたくらんでいるんですか」
「べいこくの世界征覇だ」
八田青年は胃弱患者がせんぶりをのむときのような顔をした。