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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

それは毎日三度、きまってのまなければならないのでうんざりするが、のまなければ胃弱が治らないのでやむを得ずのむ、といったような顔つきであった。

べいこく人は初めヤソ教という隠れ蓑で日本征服をこころみた。いわゆる宗教による民族奴隷化をたくらんだのであるが、徳川氏によってこの野望は壊滅し去った。そののち、――というふうに、先生の極めて独創的な議論が展開し、八田青年は涙ぐんだ。

これは八田忠晴が、憂国塾の塾生になって、一週間ほど経ったときのことである。――初め、八田青年がたずねて来て、塾生にしてもらいたいと云ったときには、塾頭である寒藤清郷のほうでびっくりした。

寒藤先生は、まっ黒な濃い眉の下の、すばらしく大きな、威嚇するような眼を糸のようにほそめ、疑わしげに八田青年の顔をみつめながら反問した。

きみはからかいに来たのか。

なにをですか、と青年は直立不動の姿勢で云った。

塾生になりたいということさ。

していただけないんですか。

いただかさないことはないが、と云って先生は考えた。慥かに、その貧しい長屋の門口には、「憂国塾」という看板が掲げてあるし、塾頭の名もはっきり記してある。