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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
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八田青年はそれをとりつくろうだけのおもいやりもなく、事実そのままを報告した。先生もまたかくべつ恥じたり弁明したりするようなことはなかった。ふん、と鼻を鳴らし、不満そうに青年の顔をじろじろと見た。
「本人に会ったのか」
と先生はきいた。
「会いません」と青年は答えた、「給仕くんが取次いでくれるんです」それからすぐに付け加えた、「これまでもそうでしたよ、みんないそがしいんだそうです」
「この名刺はちゃんと見せたんだろうな」
ほかにどうしようがありますか、とでもいいたそうに、八田塾生は両手をひろげてみせた。
「やむを得ん、こういうことはよくあるんだ」先生は八田青年を慰めるように云った、「かれらジャーナリズムは清貧だからな、そこにかれらの存在価値があるんだ、報道のためにはなん十万という金を惜しみなく使うが、自分のふところのことはいっさい構わない、だからこそ大ビスマルクはいわくだ」
「晩めしをどうしますか」と八田塾生はきいた、「米がもうないんです」
先生はビスマルクを引込めた。飲食に関しては先生は塾生以上に即物的であり現実論者である。米がないと聞いたとたんに、先生の腹の中でくうくうという音がし、三日も食わずにいたような、激烈な飢餓感におそわれた。