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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

とうちゃん

――ほぼ一週間ほど経った或る日、八田忠晴から先生にハガキが届いた。

――ぼくは憂国塾の空理空論をダンガイする、男子すべからく実行的であれとは古人の金言、ぼくあえて先生に宣言しよう、ぼく八田忠晴は身をもって女性解放運動の旗手とならん、嗚呼。忠晴生」

という文面であった。先生は読み終るとすぐに、ハガキをこまかく千切って放りだし、顔をくしゃくしゃにし、顎髯を掻いた。

「えーと、さて、と」先生は周囲を眺めまわした、「さてとりあえず、――くそっ、こんなときこそ酎をぐっとひっかけられればいいんだが、二杯でも一杯でもいいんだが、のんべ横丁のごーつくばり共どいつもこいつも実行的なやつばかりだからな」

先生は立ちあがり、ちょっと考えてから、「まずたんば老かな」と呟き、決意のある表情で、しかし確信なげに外へ出ていった。

とうちゃん

沢上良太郎には五人の子供がある。太郎、次郎、花子、四郎、梅子。殆んどとし児で、上が十歳、次が九歳、八歳、七歳、五歳。そして妻のみさおは妊娠していた。

この「街」の人たちは、それら五人が沢上良太郎の子ではなく、一人ずつべつに、それぞれ本当の父親があり、その父親たち五人がこの「街」