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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

早くしろとせきたてた。警官が京太を見て、あなたがかつ子の父親であるかと質問し、京太はなんのつもりか、メリケン粉をこねたあとで汗を拭くように、指をだらんとさせた手の甲で額を撫でながら、かつ子は妻のおたねの実の姪であると、口ばやに答え、すぐに調子を変えて、傷害事件と聞いたけれども、かつ子はどんな暴行を受けたのかときき返した。

「いや、かつ子は被害者ではなく加害者です」と警官は云った、「魚銀の店先から出刃庖丁を盗みだして、隣りの伊勢正という酒屋の、岡部定吉という小僧、いや、小店員を刺したのです、小店員は重傷です」

おたねは顎が外れでもしたように、だらっと口をあけ、眼をいっぱいにみひらいた。京太は頭の中で事態の意味するものを解明しようとするがどうしてもいとぐちがみつからないので、自分がいかに対処すべきかわからないため、さしあたりどっちつかずの立場をとることにきめた、といいたげな表情で立っていた。

「早くして下さい」と警官は云った、「自分は犯行現場の担当ではないんで、同行したらすぐ派出所へ戻らなければならないんだから」

おたねは襟に掛けていた手拭を外し、それを京太に渡すと、両手をこすり合せながら、土間へおり下駄を突っかけた。