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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

おたねは黙って食事を済ませ、あと片づけをした。諄いようではあるが、彼女のようすにはここでもまた、激しいショックのため口がきけないとか、姪のために悲しみのあまり、感情の整理がつかない、などというけはいはまったく認められなかった。時間がおそくなって空腹だからまずめしを喰べる、それが終ったら話すことは話す。なにも変ったことはない、とでも云いたげな態度であった。

「かつ子はなにも云いません」坐って内職仕事にかかりながらおたねは話しだした、「出刃庖丁は隣りの魚屋の店先から取ったもので、定吉さんを刺したのも自分だということだけは云ったそうですけれど、どうしてそんなことをしたか、なにか恨みでもあるかどうか、いくらきいても返辞をしないんです、ええ、刑事さんに云われたもんで、あたしもかつ子にきいてみました、わけがあってしたことなら、まだとしも十五のことだしあまり重い罪にはならないだろうからって」

「いや、はらました相手にきまってるさ」京太は主張した、「ほかのことなら云えるだろうが、恥ずかしい話だから云えないんだ、それにきまってるよ」

云いつのる亭主の言葉を、おたねは黙って聞くだけであった。