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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
――彼はおちつきのない男であった。春彦という自分の名を恥ずかしがる程度に神経質で、愛他精神と利己主義を兼ね備えた即物的センティメンタリストで、そうして事業家であった。
土川春彦の頭脳の中には、いつも大きな事業計画がすし詰めになっていた。この点では、同じ住人である八田公兵と共通しているようだが、そういう見かたは一知半解で、実際にはここの住人の過半数が、――たとえ空想だけに終るとしても、みなひとかどの事業家であり企業家なのであった。
真偽のほどはさだかでないが、土川春彦は株屋街に関係があり、しばしばぼろい儲けをするといわれていた。ここの住人で株屋街へ出入りするような者はいない、とすればその噂は当人の口から出たと考えるほかはないし、彼の日常のくらしぶりを見ると、ときどきどこかで、幾らかずつ儲けて来ること、それも日雇い労務や、臨時仕事ではなく、手をきれいにしたままで儲ける、ということは確かなようであった。
彼がどれくらいおちつかない人間であるかを証明することはむずかしい。詳しく知っているのは、彼の妻であった幾人かの女性と、さらに幾人かの同居人たちだけであろう。