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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

ても学問をしろって、しまいには校長先生までがたびたび勧誘しにきたそうですわ」

もちろん、ますさんは学制のことなど知らないから、大学に教頭とか校長などの名称があるかどうかも関知しないし、白墨という物は小学校で知っているが、学僕などという存在は聞いたこともないから、白墨になれとはどういうことか、校長が勧誘しにきた、とはどういう意味であるか、――おそらく話す当人の光子がちんぷんかんぷんであるだろうより以上に、まるっきり理解がつかないようであった。

光子のような性格の女性に共通する点は、相手に類教養的知識があるかないかを感知する能力に長じていることと、そういう相手をけむに巻く適当な、――というよりそのときばったりの融通無碍なボキャブラリーを駆使する神経をもっていることであろう。

「あたし小さいころ弱かったでしょ、アギレルー性躰質っていうんですって」と光子はいう、「それだもんで小学校の三年までばあやの里で育てられたのよ、それこそ真綿で包まれて乳母車で送り迎えされるほど大事に育てられたわ」

「へえー、乳母車でねえ」とますさんはいう、「小児麻痺でも患ってたんかね」