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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

相沢は深く頷き、それからブドー割を啜って、よく考えてから云った、「――たんばさんが、……そうか、きみはまだたんば老人を知らなかったんだな、まあいいや、この長屋内にたんばさんていう老人がいるんだが、その老人が或るときね、世の中に夫婦が千万組いるとしても、同じような夫婦ってものは一と組もいない、千万の夫婦がみんなそれぞれ違うんだ、っていうようなことを云ってた、そして中には、組み合わさってはいけないどうしが組み合わさってるような夫婦があって、そういうのは早く別れちまわないと、強いほうが弱いほうを食っちまうんだ、っていうようなことも云ってたが、――そう云っちゃあなんだが、きみなんぞはその組み合わさっちゃあいけない者どうしの組み合わさりじゃねえかな、掛け値のねえ話がさ」

福田くんはまだ一杯めの焼酎のグラスを、唇でちょっと啜りながら、どこを見るともなく、前方の一点をじっと見まもった。

「ぼくが初めて相さんに会ったのは、あの職業安定所でしたね」

「そうだったな、おれはちょっと嵩ばる出物があって、手を貸してくれる者が欲しかったんだ」

「焼け跡にあった屑鉄を運ぶ仕事でしたね」