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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「ぼくは殺されるんじゃないかと思うんです」福田くんはべつの話題をつかみ出した、「夜なかにひょいと眼がさめるでしょ、見ると光子のやつが片肱を突いて半身を起こして、ぼくのことを上から見おろしているんです。そしてぼくが眼をさましたなとみると、唇だけでにーっと笑い、眸を凝らしてじーっとみつめるんです」

相沢は身ぶるいをし、「お岩さまだな、まるで」と呟いた。

「は、じ、め、くん、って光子は云うんですよ、あんたいま夢の中で、きれいな女の子を抱いてたわね、あれはどこのだーれって」

「きみはそんな夢をみてたのか」

「みていたかもしれない、自分じゃ覚えていないが、光子にそう云われるとそんな夢を見ていたような気がしてくるんですよ」

「それからどうする」

「ぼくのことを押しつけて」福田くんは睡をのみ、焼酎のグラスを舐める、「その人こんなふうにはじめくんのこと可愛がってたわねって」

相沢は上を見あげ、聞き耳を立てるような表情をした。まるで彼は自分の家にいて、いまが夜半であって、二階の物音にひきつけられている、とでもいったような顔つきであった。福田くんはざっとなりゆきを話してから、両手をそろそろと自分の首へ押しつけた。