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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

――けれども、おるいさんはもうびくっともしなかった。こういう「街」では住人の移動がはげしく、三年も定住すれば古参のほうだから、おるいさんとしては近所の人たちに気がねをしたり、不必要なきげんとりをしなくともよくなっていたのだ。――そこで彼女は秘し隠しせずに、徹底した倹約ぶりを遠慮なく実行してみせた。

貧しい人たちが倹約するとすれば、その第一は食費を削ることになる。娯楽費などはむろんだめ、暇があれば手仕事をする。はるちゃんは夜間高校へかよっているから、帰りは十時ちかくになるが、高校へゆく代りに一倍内職をしなければならない。主人の慶三も例外ではなく、勤めから帰って夕食を済ませると、一と休みする暇も与えられず、内職にと追い立てられるのであった。

二女のふきや三女のとみについて述べることはないだろうし、ここではいかなる強制も圧迫もおこなわれない。おるいさんが采配を振るといったが、彼女は亭主や娘たちに向って、ああしろのこうしろのとしいるようなことは決して云わないし、自分が誰よりもよくはたらいた。意地のわるい表現が許されるなら、おるいさんは自分がはたらいてみせることによって、一家を奮起させているともいえるようであった。