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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

――本当に奇妙なことだが、みんなが生きていて、いっしょにくらしていたときより、夜なかに、いまは亡きかれらと話しあうときのほうが、はるかに現実的であり、また、なまなましいたのしさが感じられる、とその年寄は云うのであった。

「生きていればこそだね、とあたしは云ってやった」たんば老は微笑した、「――べつの言葉で云えば、おまえさんが生きているあいだは、その人たちも生きているわけだ、こういうことはそうざらにあるものじゃないらしいな」

その年寄は、なるほど、といいたげに頷き、暫くじっと考えこんでいたが、やがて心配そうに、いまの薬は一時間たつと効くんだなと質問した。そうだ、あと十分もすれば効きめがあらわれる筈だ。その年寄はまた考えこんだが、顔色がしだいに悪くなり、自分の手をつくづくと見まもったのち、もう取り返しはつかないのかねと云った。

「いや、とあたしは答えた、薬というものには必ず、その効きめと反対な性質の薬がある、たとえば下痢を止める薬があれば通じをつける薬があるし、胃酸を中和する薬と、逆に胃酸を出すための薬がある、また」

そう云うのを遮って、その年寄は「いまの毒薬にもそういう薬があるか」