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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

とたいそうせきこんできいた。

「むろん毒薬には解毒剤というものがあるよ、とあたしは答えた、いま手許に持っているかどうか思いだせないが、――と云いかけたとき、その年寄はあたしにとびついてきたね、あんまり猛烈な勢いだったんで、あたしは絞め殺されるのかと思ったくらいだった」たんば老は片手で自分の首を押えながら云った、「さあ、その解毒剤をすぐに出せ、すぐに出せ、ってきいきい声でどなるんだな、さもないと人殺しの罪で訴えるぞ、いや、嘘じゃない、その年寄は本当にそうどなりたてたよ」

たんば老はその年寄に解毒剤を与えた。なかなかみつからないようなふりをして、その年寄に近づく死の恐ろしさを充分にあじあわせてから。薬の一つは解熱剤、一つは胃腸薬であって、云うまでもなくその年寄は無事に帰った。

「人殺しとはねえ」と云って小田滝三は笑った、「自分で死にたいと頼んでおきながら人殺しとは、ずいぶんうろたえたもんだな、やっぱり人間はいざ死ぬとなると、気取ってばかりもいられないんだな」

小田滝三はまもなく帰った。なかまを叩っ殺すといきまいたことは、もう忘れてしまったように。

小田滝三は後日、寒藤清郷に向ってそのときの話をし、たんばさんは人をくったひとだ、と云って感心した。