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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

たんば老は手を伸ばして、二つの湯呑に茶を注ぎ、一つを曾根隆助に渡して、自分のをゆっくりと啜った。

その夜半、曾根隆助の家の二階でその事がおこった。午前二時ちょっとまえ、二階の電燈が急にともって、お琴と孝さんを仰天させた。二人が振向いてみると、隆助が電燈のスイッチへ手をやったまま、上から二人を見おろしていたのだ。

「驚くことはないよ孝さん」と曾根隆助は云った、「明るいほうが情がうつっていいだろう、ゆっくりやんなよ、ねえこんなことをするのはよっぽどお琴に惚れているんだろうからな、孝さんにきれいさっぱり進呈するよ」

お琴も孝さんも動けなかった。明るい電燈の光りの下では、動きようのない状態だったのかもしれない。孝さんのふるえているのが、隆助の眼によく見えた。

「お琴は進呈するよ」と曾根隆助は続けた、「それから五人の子供と、お琴の腹の中にいる子も付けてやる、わかったね、私の云うことはこれっきりだ、さあ、二人でまたゆっくりやんな」

そして彼は、電燈をつけたままにして、階下へおりて寝た。

鬼ばばあという渾名を名実ともに具備したうえに、五人の子とまだ胎内にいる子まで付いている女を、二十一か二の青年がよろこんで貰う筈はないだろう。