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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
あとがき
わが国ではもちろん、世界のどこでも、極貧者は自分たちの街を作るようだ。計画的にそうするのではなく、あたかも風の吹き溜まりに塵芥が集まるような、いつ、そうなったともわからないほど自然な成り立ちであり、経済的にも感情的にも、自分たちの「街」以外の人間とは、交渉を持とうとしないのが一般である。
ここの住人たちは「街」という概念では団結して他に当るけれども、個別的には孤独であり、煩瑣論的な自尊心を固持しているのが常のようだ。煩瑣論的というのは、作中に出てくるのだが――たとえば――ひと摘みの塩を借りにゆく、という行為をとってみても、本当にそれが必要である場合のほうが多いと同時に、少しも必要ではないが、親近感を強めるために、また相手に優越感を与えるために、あるいは吝嗇のために、そうすることがしばしばあるのである。
私がこれらの人たちに、もっとも人間らしい人間性を感ずるのは、その日のかてを得るため、いつもぎりぎりの生活に追われているから、虚飾で人の眼をくらましたり自分を偽ったりする暇も金もない、ありのままの自分をさらけだしている、というところにあると思う、――もちろん、豊かな生活をしている人たちと同様、かれらにも虚栄心があり、みえもあり、嫉妬や誹謗や貪欲などもある。