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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

それから二つのバケツに水を汲んで帰る、というのが日課の始まりで、これは季節や天候に左右されることなく、毎日きちんとおこなわれた。

極めて稀に、井戸端で人といっしょになることがある。

「お早う」と相手が呼びかける、「いつも早いね、半助さん」

すると半助はたちまち肩をすぼめ、卑屈におじぎをしながら、相手のきげんをとるように、おどおどと返辞をするやいなや、二つのバケツをさげて、自分の家のほうへ小走りに去るのであった。

半助の生活はとらと呼ぶ飼い猫とだけ、密接につながっていた。とは云っても、特に変ったところがあるわけではない。一般に猫好きとか犬好きとかいわれる人たちの中には、常識はずれな例が少なくないが、それらの人たちに比べると、半助ととらの関係は極めて平凡な、ありふれたものにすぎなかった。――ただ人づきあいをしない半助が、とらとだけは話をしたり、いっしょにめしを喰べたり、共寝をしたりするところに、「密接」なつながり、という感じがするのであった。

朝はやく、夏でも暗いうちに半助は眼をさます。

「とら公」と半助は呼びかける、「そろそろ起きようかね」

掛け夜具の裾のほうで、まるくなって寝ているとらが、眼をあいて主人のほうを見る。