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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
その仕事の大切さと秘密を要することと、さらにその細工が極めて微妙であるため、起居動作からして、それに順応するように自分を馴らしている、というのが真相のようであった。
とらは主人が仕事にかかるのを見届けてから、机の脇のところで眠るか、外へでかけてゆくかする。眠るときは俗に香箱を作るというかたちで、横になることはめったにない。外出したいときには、主人の膝へ躯をこすりつけたり、仕事に熱中している主人が気づかない場合には、「にゃあ」とかすかにないてみせ、主人が障子をあけてくれるまで待った。
外へ出たとらは、ゆうゆうとあるいてゆく、彼は黒っぽい三毛猫で、躯もたっぷり肥えていて大きいし、顔もサッカーのボールくらい大きくてまるかった。半助が飼ってからでも七年になるそうだが、十年以上のとしよりだという者、もうそろそろ化けるころだ、という者もあった。
とらはボスのナンバー・ワンであった。
主人の半助がひっそりと、自分自身のうしろにちぢこまっているようであるのと対蹠的に、とらはいつも堂々といばりかえって、なにもかも気にくわん、とでもいうような眼つきで、ゆうゆうと好きなところを好きなようにあるいてゆく。