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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
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揚げ残りではあるけれども、本筋の下町ふうてんぷらに満足したとらは、食後のけだるい幸福感にひたりながら、ゆったりと帰途についた。こんども脇見などはしない、世間はおれのものだ、とでもいいたげな顔つきで、一歩、一歩と、本通りを横切ってゆく。各種の自動車、自転車、市電など、ぜんぜん気にかけない。――トラックが走って来てクラクションを鳴らす。ずう躰が大きくて、あるきぶりがゆうゆうとしているから、たとえ砂利トラの運転手でも眼をひかれずにはいられないのだ。
「やい、そこの泥棒猫」と運転手はクラクションを鳴らしながらどなる、「どかねえとひき殺すぞ」
とらは走りだすだろうか、否、彼は逆に立停ってしまい、ゆっくりとトラックのほうへ振返る。なんだ、という顔つきで、じっと運転手を睨みつけるのだ。運転手もまさかひき殺すわけにはいかないから、慌てて急ブレーキをかけ、トラックを停める。とらはそれを確認してから、おもむろに車道を横切ってゆくのである。
市電でも同じことであった。市電には正規のレール上を運行するという、一種の特権を与えられているから、そんなことはないだろうと思われるが、運転手には感情があるので、やはり承知しながらひき殺す気にはなれない。