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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「なんです、それは」

「べつに意味はないんだよ」老人はまた喉の奥で忍び笑いをした、「めしを食うのに、よくよくはらをきめた、というだけのことさ、あの男はいつもそんなふうなんだがね」

辰弥は聞いていたのかどうか、腕組みをして天床を見あげるかと思うと、振向いて、じっと壁をみつめたりした。

たんば老人はキセルを手焙りのふちではたき、火箸で火皿の中をほじくった。

「またあにきのやつが帰って来たんです」と辰弥は云った、「いつものとおりなんです、僕はもういやになっちまった」

たんば老人は、いちど置いたキセルを取りあげ、タバコのすい殻のはいったなにかの空き罐を引きよせたが、思い直したとみえて、また元のところへそっとキセルを置き、なんということもなく、溜息をついた。

「話してごらん」と老人は云った、「悪い物を喰べたときは、ひまし油をのんで出してしまうに限る、さっぱりするだけでも儲けものだからね」

「金を都合しろって云うんだ、帰って来ればいつもそうなんだけれど、こんどは大きいんですよ」

老人は黙ったまま、一枚板の古い将棋盤を、駒の配置の動かないように、脇のほうへそっと押しやった。